この記事は、「SOLIDWORKS PDMの基本情報と使い方ガイド<1>」の続編です。前回はPDMについての基本的な知識や構成をお伝えいたしました。今回は、実際にどのようにファイル管理をするのかをご紹介いたします。
目次
SOLIDWORKS PDM を使ったファイル管理の流れ
ファイルのチェックイン・チェックアウトの仕組み
従来のフォルダでのファイル管理では、いつ誰がどのファイルを更新したかを把握するのは難しいでしょう。SOLIDWORKS PDMによる管理なら、「チェックイン」「チェックアウト」機能によって明確に管理されます。前回も軽く触れていますが、改めて説明していきます。
SOLIDWORKS PDM のチェックイン
設計変更を他のユーザーと共有するために、編集したファイルをサーバー(ボルト)に格納・更新する処理をチェックインと言います。

チェックインすると、そのファイルに他のユーザーがアクセスして参照・更新をすることができるようになります。
SOLIDWORKS PDM のチェックアウト
サーバー(ボルト)から最新ファイルをローカルにダウンロードします。このとき、他のユーザーが同時編集できないように排他制御がかかります。
下の図でいうと、Dさんがチェックアウトしているファイルaは、BさんとCさんは閲覧のみ可能な状態です。Dさんが編集を終えてチェックインすると、BさんやCさんがチェックアウトできるようになります。
チェックアウトできるのはファイルに対する所有権を持ったユーザーのみです。誰がどのファイルをチェックアウトして編集中なのかがエクスプローラー上で明示されるため、間違えて編集し上書きしてしまうリスクが軽減されます。

※ファイルの取得
サーバー(ボルト)からファイルを取り出しますが、更新することはできません。あくまでもファイルを参照するだけです。
※チェックアウト戻し
変更したファイルをサーバー(ボルト)に格納せずにキャンセルすることです。ファイルを変更してからチェックアウトを元に戻すと変更は失われます。
バージョン管理とリビジョン管理について
SOLIDWORKS PDMは、誰かがファイルをチェックインするたびにファイルのバージョン番号を1つ上げます。古いバージョンのファイルはサーバーに格納されて消えることがないため、過去のバージョンを参照することも簡単です。これにより、設計資産の活用や保守性の向上が期待できます。
一方、リビジョン管理とは、ファイルやアイテムのバージョンを一意に識別するリビジョン番号を設定して管理することです。すべてのバージョンとリビジョンを含むファイルの履歴を維持しているため、リビジョン番号を設定することで正しいバージョンを取得したり、特定のユーザーにアクセスを制限したりすることができます。

SOLIDWORKS PDMのリビジョン管理でできること:
- ・ワークフローの遷移中に自動的にリビジョン番号を割り当てる
- ・十分な権限を持つユーザーが手動でリビジョン番号を割り当てる
- ・ファイルの過去バージョンの表示、取得、比較、復元
- ・ファイルが正しいステータス(出図)になったときに、自動的にそのリビジョンを1つ上げる
PDMを活用したプロジェクトの進め方
プロジェクトのステータス追跡とワークフローの設定
SOLIDWORKS PDMでは、ファイルのステータス管理が可能で、「設計中」「レビュー中」「承認済み」などを設定できます。ワークフロー機能と連携し、電子承認を実現することで、ペーパーベースの承認フローに比べて大幅な時間短縮が可能です。
ワークフローは業務プロセスを図式化し、承認手続きを明確化することで抜け漏れを防ぎます。可視化により業務の効率化や不要な工程の削減が可能です。また、設計部門は開発初期から技術情報へアクセスできる一方、他部門はドキュメント承認後にアクセス可能とするなど、適切な情報管理を実現します。
ワークフローの主な機能は以下の通りです。
- ・ファイル情報の自動更新(データカード情報の更新)
- ・マイルストーン到達時の自動通知
- ・承認済みドキュメントへのリビジョン番号割り当て
さらに、ステータス(例:「承認待ち」「承認済み」)ごとにユーザー権限を設定し、ファイルの編集・チェックアウトやリビジョン番号の変更を制御できます。
タスクと通知機能の活用
プロジェクトを円滑に進めるためには、タスク機能や通知機能を上手く活用するとよいでしょう。
タスク
タスク機能では、各種の SOLIDWORKS PDM ファイルに対して頻繁に実施するタスクの設定、実行、監視が行えます。SOLIDWORKS PDM では標準で次のタスクを提供します。
- ・SOLIDWORKSファイルの変換
- ・Design Checker
- ・印刷機能
すべてのタスクは、オンデマンド実行、スケジュール ベース実行、SOLIDWORKS PDM ワークフローによるトリガ実行が可能です。
タスクは、ボルトビューに接続されているすべてのコンピュータに対して実行されます。よって、必要に応じて、特定のコンピュータでのみ実行されるようにしたり、クライアント コンピュータと専用サーバーに分散させたりする設定ができます。
通知
ユーザー、ユーザーグループに送信されるメッセージです。ファイルがステータスを変更したりアクセスされていたファイルが解放されたときに受信ユーザーに知らせたり、警告したりします。通知と通知設定はサブフォルダで変更されない場合は全てのサブフォルダに継承されます。
通知には2つのタイプがあります:
- ・明示的に送るマニュアルの通知
- ・オブジェクトのステータス変更により生成された自動通知
リソースの最適化
SOLIDWORKS PDM ボルトの格納されているファイルは時間の経過とともに蓄積されていきます。検討段階のファイルも後で役に立つと思ってボルトにチェックインしていませんか?それ、本当に必要でしょうか?
ボルトに蓄積されたファイルは、長期的にはデータ管理において最大の問題になる可能性があります。
この章ではリソースの最適化に関する方法を紹介します。
<注意事項>
ボルト内のファイル削除や圧縮を実行する前に、全てのファイルがユーザーによってチェックインされ、データベースとアーカイブの両方のバックアップが取られていることを確認してください。また、全てのユーザーをログオフされていることを確認してから実行してください。
ボルトアーカイブのクリーンアップ
アーカイブ サーバークリーンアップは、設定不要で定期的に実行されるタスクです。アーカイブから破棄されたファイルを自動的に削除し、データベース内のレコード削除後にスキャンを行い、該当ファイルを完全に削除します。
(デフォルトでは、毎晩 AM3:00 にアーカイブ サーバー上のすべてのボルトアーカイブを対象に実行されます。)
ユーザー操作の流れをご紹介します。
SOLIDWORKS PDM でファイルを削除すると、データベース上で「削除済み」のフラグが立ち、エクスプローラーから見えなくなります。ただし、アーカイブ内にはデータが残り、完全に破棄されるまで保持されます。これはWindows のごみ箱と同じ仕組みで、定期的に空にしないとディスク容量を圧迫するのと似ています。みなさんにも覚えがあるのではないでしょうか。
先ほど「削除」と「破棄」という単語を使いましたが、以下のような違いがあります。
・削除(deleteキー) → 警告なしで削除(ただし、アーカイブにはデータが残る)


・破棄(shift+deleteキー) → 警告表示後、完全に破棄(アーカイブにデータが残らない)

通常のSOLIDWORKS PDMの操作では deleteキーでファイルを削除し、破棄はごみ箱やアーカイブ サーバークリーンアップに任せるのがおすすめです。
筆者の前職場では、月に一度の定期メンテナンスとして、PDMサーバーのWindowsアップデート(バッチ適用)、削除ファイルの廃棄、アーカイブサーバーのクリーンアップを実施していました。
これは、削除されたファイルが大量に残っていると、SOLIDWORKS PDMボルトのSQLデータベースのパフォーマンスに悪影響を与えるためです。SQLデータベース内のテーブルに不要な行が多くなると、ファイルの削除処理を解析して無視するのに時間がかかり、その結果、クエリの応答が遅くなり、PDMの操作全体に影響を及ぼすことがあります。
ボルトアーカイブの圧縮
デフォルトではファイル アーカイブの全ての古いバージョンは圧縮されずに元の形式でアーカイブ サーバーに保存されます。ディスク容量を節約する為に、最新バージョン以外のすべてのファイル バージョンを圧縮することができます。
最新バージョンは、クライアントとサーバーの間の転送時パフォーマンスを最適化する為に常に非圧縮で保存されます。サーバー上でのアーカイブ サーバー圧縮を有効にするためにSOLIDWORKS PDM ポリシーを使用することをお勧めします。 または、圧縮を有効にするレジストリ キーを、各ボルトに対して手動で追加します。
筆者の経験では、次にご紹介するコールドストレージと比べて、ボルトアーカイブ圧縮はディスク容量の節約をするのに非常に有効な手法でした。
コールドストレージについて
SOLIDWORKS PDMには、自動でリソースを最適化するためのコールドストレージという機能があります。古いバージョンのファイルを自動で移動または削除することにより、アーカイブサーバーのディスク容量を節約できます。
メリット
✅ アーカイブサーバーの空き容量を増やせる
✅ 設定したスケジュールで自動管理できる
デメリット
⚠ 削除したバージョンは復元できない(バックアップが必要)
⚠ 移動したバージョンの復元は手間がかかる
複製されたサーバーがある場合、コールドストレージを設定したサーバーでは古いバージョンにアクセスできませんが、他のサーバーには残っていることもあります。
筆者はコールド ストレージ(移動)を何度か実施した経験がありますが、設計者から「古いファイル バージョンを戻してほしい」と何度も依頼されました。手間をかけてファイルを元に戻しましたが、それでもディスク領域の空きがなくなってしまいました。
次にアーカイブの圧縮を実施すると、コールド ストレージを実施し確保したディスク容量と同じディスク容量を確保することができました。こちらの方がより良い選択であったことを実感しています。
ディスク容量を確保するなら、まずはアーカイブの圧縮を検討するのがお勧めです。ディスク領域を削減しながらも、全てのファイル バージョンにアクセスできます。
データベースのバックアップ方法
PDMに限らずですが、データは定期的にバックアップを取るようにしましょう。バックアップには、次のような方法があります。
フルバックアップ
ディスク全体を丸ごと取得するバックアップです。全ての情報を取得するので復元すると完全に元の状態と同じになります。
ただし、バックアップに時間がかかる点とバックアップファイルのサイズが大きい点がデメリットになります。
システムの運用前に全体のバックアップを取得し、大規模なアップデートやメンテナンス時に再取得するのが効果的です。
差分バックアップ
差分バックアップは、前回のフルバックアップデータと比較して変更になった部分を保存します。差分バックアップを活用すれば復元したい時点を選択して作業を元の状態に戻せます。また、復元スピードが速い点もメリットです。
しかし、フルバックアップより高頻度で差分データを個別に保存するため、データ量が増加しやすく、大容量の保存領域が必要になります。
チームメンバー間の情報共有
リモート アクセス
「SOLIDWORKS PDM Web2 クライアント」を使用すると、ユーザーはインターネットブラウザを備えたほとんどのデバイスから SOLIDWORKS PDM Professional Vault にオンラインで接続可能です。
これにより、SOLIDWORKS、SOLIDWORKS PDM をインストールしたPCを持っていない他部門のユーザーも SOLIDWORKS PDM Vaultにアクセスし、データを共有することができます。
コラボレーション機能の活用
SOLIDWORKS PDM Professionalは、設計者が同じ建屋ではなく他拠点や海外拠点にいようと関係なく設計データを簡単に共有できます。
グローバル化が進み、多くの企業が世界各地に分散した設計拠点を抱えています。国内拠点間であれば頻繁にデータを授受できますが、海外拠点とのデータ授受はネットワーク速度が低下します。多くの場合、ユーザーはデータをローカルドライブに保存し、提供依頼があった時に送付していると思います。その結果、ファイルのバージョンが一致せずに設計に支障が発生する可能性があります。
筆者の経験でもPDMを導入するまでは、海外拠点とのデータ授受は大きな課題でした。オンデマンドのファイル同期や夜間でのファイル同期を設計者から求められていました。
SOLIDWORKS PDM Professionalは、分散したグループが1つの環境で効果的に作業を進めるためのツールを提供します。必要なコラボレーションレベルとサイト間のネットワーク速度に応じて、次のスキームが提供されています。
1拠点(1サイト)運用の場合
1 DB 1 Vault(ワン データベース ワン ボルト)とも呼びます。データベースとアーカイブ サーバー(ファイルサーバー)に接続します。ファイルは、必要に応じてサーバーからユーザーのボルト ビュー(ローカルキャッシュ)に自動的にダウンロードされます。
構成
- ・SOLIDWORKS PDM サーバー(アーカイブサーバー)
- ・データ ベース サーバー(SQL Server Standard Edition)
- ・SOLIDWORKS PDM クライアント
アーカイブ サーバーとデータ ベース サーバーは、別々のサーバーにインストールすることも同じサーバーにインストールすることもできます。同じサーバーにインストールした環境をオールインワン環境とも呼びます。


2拠点(マルチサイト)運用の場合
マルチサイトの説明の前にネットワーク環境について簡単に説明します。
・LAN(Local Area Network):オフィスや工場内の限られたエリアで接続できるネットワーク
・WAN(Wide Area Network):物理的に離れた拠点同士を接続するネットワーク
従来は拠点間のネットワーク接続には専用回線を使用していましたが、現状ではコストも手間もかからず、手軽に利用できるVPN(Virtual Private Network、インターネットと端末をつなぐ仮想専用線)で接続するのが一般的になっています。
ただし、VPNサービスは品質および価格面の違いから2種類のタイプに分類されます。通信の重要度や通信量など、各拠点の利用形態に応じて適切なタイプを選択する必要があります。
筆者の経験では帯域確保型 VPNは安定して使用できましたが、ベストエフォート型 VPNの場合は多くの企業が使用する出社時間帯や帰宅時間帯などはネットワークの接続が遅くなり、帯域確保型 VPNとの差を実感しました。
社内でLANと同様の通信速度を確保したWAN環境を構築できれば良いのですが、費用の関係で難しいのが現状です。みなさんもコロナ禍で同じような体験や体験談を聞いたことがあるのではないでしょうか。
それでは2拠点(マルチサイト)運用について説明していきます。
拠点1のアーカイブサーバー(共有が必要な情報のみに指定可能)を拠点2のアーカイブサーバーに複製します。各サイトで作成されたファイルは、一定の間隔あるいはオンデマンドで同期されます。
複製元の拠点1のみにデータベースサーバーが存在します。拠点2には複製されたアーカイブサーバーのみが存在します。この構成をマルチアーカイブサーバーと呼んでいます。
ユーザーは通信速度の遅い WAN ではなくLAN を介してファイル サーバーを操作できます。
拠点1(複製元) | 拠点2(複製先) |
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・アーカイブサーバー ・データ ベース サーバー (SQL Server Standard Edition) ・SOLIDWORKS PDM クライアント | ・アーカイブサーバー ・SOLIDWORKS PDM クライアント |
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2拠点(マルチサイト・マルチデータベース)運用の場合
拠点1、拠点2の両方にデータベースサーバーが存在します。但し、SQL ServerのEditionがEnterpriseである必要があります。筆者も海外拠点とのマルチサイト対応で検討しましたが、SQL Server Enterprise Editionの価格がネックになり断念しました。
接続速度が遅い環境で、複数サイト間の活発なコラボレーションが求められる場合に、最高のパフォーマンスを確保できます。このソリューションは、Microsoft SQL Server Enterprise Editionで利用できる堅牢な複製機能を活用し、読み取り操作をWAN経由ではなくローカルデータベースで直接実行します。
拠点1(複製元) | 拠点2(複製先) |
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・アーカイブサーバー ・データ ベース サーバー (SQL Server Enterprise Edition) ・SOLIDWORKS PDM クライアント | ・アーカイブサーバー ・データ ベース サーバー (SQL Server Enterprise Edition) ・SOLIDWORKS PDM クライアント |
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テクノソリューションズによるPDM関連サービス

SOLIDWORKS PDMの導入には、環境構築や初期設定が必要です。テクノソリューションズでは、これらの作業を支援するサービスを提供しています。お客様の設計プロセスや環境に最大限適合するようにPDM環境を構築・導入することで、SOLIDWORKS PDMの効果を最大限に発揮させることができます。
また、導入後の運用開始まで、専門の担当者が、初期設定やユーザー教育、トラブルシューティングなど、あらゆるサポートを提供します。これにより、お客様は安心してSOLIDWORKS PDMを導入し、業務改善に取り組むことができます。
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