SOLIDWORKSに完全準拠したPDM(Product Data Management)システムであるSOLIDWORKS PDMには Standard と Professional があります。「どちらを選べばいいんだろう?」と迷っている方のために、それぞれの違いや選び方を分かりやすく解説します。ぜひこちらの関連コラムと併せてご覧ください。
PDM関連の用語は聞き慣れない方もいらっしゃると思います。知っておくと構成がイメージしやすくなる用語を最後(見てみる▼)に説明しています。不安な方は先に見てみてください。復習にもどうぞ。
目次
SOLIDWORKSのデータ管理ソリューションの選択方法

SOLIDWORKSのデータ管理ソリューションは色々存在しています。その中で、「私の会社にとって最適なものはどれですか?」と問われたら、筆者なら以下のように回答します。
適切なソリューションの選択は、チームの規模と設計プロセスをサポートするために必要な機能によって異なります。プロジェクトの進行が速く、設計が複雑な場合、データ管理は極めて重要になるからです。データ管理ソリューションの主な目的は、設計者が設計に集中できる環境の構築です。ファイルやカスタム プロパティ値の更新、ファイル履歴の追跡、バージョンやリビジョン管理などの面倒な作業は全てデータ管理システムに任せる必要があります。
筆者は以前のコラムで 「SOLIDWORKSのデータ管理ソリューションは SOLIDWORKS PDM がおすすめ」とお伝えしましたが、SOLIDWORKS PDM には2種類のソリューションがあります。
1つはデータ管理に最適な SOLIDWORKS PDM Standard です。もう1つは、データ管理機能に加えて、高パフォーマンスとスケーラビリティを実現する包括的なソリューションである SOLIDWORKS PDM Professional です。
両者の機能はメーカーサイトで最新情報をご確認ください。
⇒機能の比較(メーカーサイトを開きます)
適切なパッケージを選択するために役立つ、各ソリューションの機能の概要を以下に示します。
SOLIDWORKS PDM Standard
SOLIDWORKS PDM Standard は小規模チームのデータ管理に最適です。SOLIDWORKS PDM Standard のライセンスは、SOLIDWORKS Professional または SOLIDWORKS Premium のライセンスに含まれています。 SOLIDWORKS PDM Standard はデータ管理に特化したシンプルなツールです。プロジェクトのデータ セキュリティ、リビジョン管理、設計データの再利用に役立ちます。
SOLIDWORKS PDM Professional で使用されているものと同じアーキテクチャに基づいているため 100% 互換性があり、いつでもアップグレード可能です。
メリット | ・無料で使える (SOLIDWORKS Professional / Premiumを使っている場合) ・習得が容易 (SOLIDWORKSおよびWindowsエクスプローラーと統合されている) ・Professionalへアップデート可能 (SOLIDWORKS PDM Standard では対応できない場合) |
デメリット | ・基本的なワークフロー機能のみ提供 (シンプルな承認プロセスのみ) ・アクティブ ディレクトリや LDAP ログインと統合不可 ・SOLIDWORKS 以外の統合が困難 (SOLIDWORKS PDM API サポートなし) ・スケーラビリティの制限 (データ ベースが SQL Server Express Edition) |
SOLIDWORKS PDM Professional
SOLIDWORKS PDM Professional は、製品データの管理を高度にカスタマイズ可能なツールです。SOLIDWORKS PDM Professional は、大量のデータを扱う大規模なチームに適しています。高度な機能には、業務工程ごとのワークフローの作成や担当者への通知機能、マルチサイト間でのデータ管理機能、リモートアクセス機能で組織内外のユーザーが Webブラウザからデータにアクセスできます。
また、SOLIDWORKS PDM API によるカスタマイズが可能であることが強みとなっています。
メリット | ・多くの主要CADのアドインと統合可能 ・カスタマイズ可能なステージを備えた複雑なワークフローをサポート (複雑なファイル承認プロセスを持つ企業に最適) ・SOLIDWORKS PDM API のサポート (PDM 操作の自動化や他システムとの統合化が可能) ・マルチサイト対応 (アーカイブ サーバーの複製が可能) |
デメリット | ・ドキュメント管理に特化 (製品の設計や構成要素を統合した定義の管理ではなく) ・SQL関連のライセンスは別途購入が必要 (Microsoft SQL Server Standard 以上、SQL Server CAL*) *クライアントアクセスライセンス:Microsoft SQL Server などのサーバーで実行されているサービスにアクセスするためのライセンス |
SOLIDWORKS PDM StandardとProfessionalの考慮すべき違い
SOLIDWORKS PDM Standard と SOLIDWORKS PDM Professional のどちらが必要かを判断するのは大変な作業です。意思決定プロセスを容易にするために、考慮すべき幾つかの項目をまとめました。
複数のワークフローとワークフローのステータス
ワークフローとは、業務の申請や承認、確認、決裁などの進行手順を指し、「誰がどのように始めて、判断や処理を行い、完了させるのか」という一連の流れを管理する仕組みです。ワークフローのステータスは、その進行状況や承認の状態を表します。
SOLIDWORKS PDM Standard ではワークフローの数は1つだけに制限されています。SOLIDWORKS PDM Professional のワークフローの数には制限がありません。 設計変更、プロジェクト固有の仕様、その他のプロセスは、単一のワークフロー制限内では実行できない可能性があります。
SOLIDWORKS PDM Standard では、ワーフロー ステータスは 10 個までに制限されています。現在の承認プロセスが社内の多数の人、グループ、または部門で構成されている場合は、必要なワークフロー ステータスの数を考慮する必要があります。 SOLIDWORKS PDM Professional のワークフロー ステータスの数には制限がありません。
筆者の経験では、承認プロセスのワークフローが別システム(例:BOMシステム)にある場合はワークフローやワークフローステータスの数は大きな問題にはならないこともあります。
SOLIDWORKS PDM Standard | SOLIDWORKS PDM Professional | |
---|---|---|
ワークフロー | 1つだけ | 個数制限なし |
ワーフローの ステータス | 10個まで | 個数制限なし |
タスク
SOLIDWORKS PDM Professional では「タスク」機能を使用して、図面を PDF に変換したり、3Dモデルを中間ファイル形式に変換したりするなどの反復的な作業を自動化できます。「タスク」は、ユーザーが手動で実行することも、ワークフローの遷移時に自動実行させることも可能です。
一方、SOLIDWORKS PDM Standard では、図面をPDFに変換する単一のタスクのみ利用でき、カスタマイズや追加のタスク作成はできません。
SOLIDWORKS PDM Standard | SOLIDWORKS PDM Professional | |
---|---|---|
利用例 | 図面をPDFに変換する単一のタスクのみ | 図面を PDF に変換や 3Dモデルを中間ファイル形式に変換など、 反復的な作業を自動化可能 |
SOLIDWORKS PDM Professional のタスク機能を活用することで、作業の自動化が進み、業務効率が大幅に向上します。
筆者の経験ではタスクの変換機能は優れた機能ですが、1つのタスクで1つの中間ファイルにしか変換できません。たとえば、3DモデルをIGESとSTEPという2つの形式に変換したい場合は、2つの変換タスクを実行させる必要があります。作業効率を更にあげるためには、SOLIDWORKS API で3Dモデルを中間ファイルに変換するプログラム※を作成し、SOLIDWORKS PDM API と組み合わせて独自のタスクを作成することで実現可能です。
※3Dモデルを中間ファイルに変換するプログラム…以下のコンテンツをご参照ください。
・コラム「SOLIDWORKSをカスタマイズ!~マクロで簡単な開発にトライしよう」
・API 関連動画 視聴お申込みフォーム より動画「あなたの業務をもっと楽にするSOLIDWORKS API 活用【SOLIDWORKS DAY 2024より】」にチェックを入れてお申込みください。
SQL Server Express Edition と SQL Server Standard Edition の比較
SOLIDWORKS PDM Standard は SQL Server Express Edition を使用します。 SOLIDWORKS PDM Professional は SQL Server Standard Edition を使用します。SQL Server Express には、SQL Server Standard Edition にはない制限が幾つかあります。
SQL Server Express | SQL Server Standard | |
---|---|---|
最大データベースサイズ | 10GB | 524 PB ※1 PB (ペタバイト) = 1.000.000 GB |
インスタンスごとの最大RAM | 1 GB | 128 GB |
10GBのデータベース制限は特に問題にならないと思いますが、1GBのRAM制限は問題になる可能性があります。SOLIDWORKS PDMの全てのデータはデータベースと通信を行うので、接続するユーザーが増えると、RAM 制限による影響がパフォーマンスに悪影響を与える可能性があります。
SOLIDWORKS PDM Professionalでできること
この章では、SOLIDWORKS PDM Standard にはない、SOLIDWORKS PDM Professional の機能をご紹介します。
シリアル番号
SOLIDWORKS PDM Professional には、シリアル番号を自動生成する機能があります。この機能により、部品番号やプロジェクト番号が一意に管理され、重複を防ぎます。シリアル番号は、ファイルやフォルダーに自動的に名前を付けたり、アイテムに一意の ID を割り当てたり、データカードに一意の値を設定したりするためにも使用できます。シリアル番号の自動化によって、管理がスムーズに行え、作業効率が向上します。
テンプレート
SOLIDWORKS PDM Professional のテンプレート機能を使うと、ボルト内の指定されたファイル構造を自動的に維持できます。あらかじめ設定したテンプレートを実行することで、手動入力なしで正確なフォルダー構造とファイルを作成できます。
さらに、テンプレートカードを利用すれば、フォルダーテンプレートのカスタマイズが可能です。例えば、プロジェクト番号を自動で割り当てたり、顧客名・プロジェクト名・プロジェクト番号などの情報をサブフォルダーのデータカードに設定したりできます。これにより、サブフォルダーのデータカードからファイルへ情報を自動転記し、カスタムプロパティを更新することも可能です。
その結果、ユーザーは図面のタイトルブロックなどで、プロジェクトに関する情報を手入力する手間を省けます。
SOLIDWORKS PDM レポートジェネレーター
SQL サーバーにログインしなくても全てのユーザーが定義済みの SQL クエリを実行できるようにする SOLIDWORKS PDM Professional のツールです。
ほとんどのユーザーは組み込みの検索ツールで検索のニーズを完全に満たせると考えています。ただし、SQL データベースでカスタム検索を実行する必要があると感じる人もいます。この検索を複数回実行する場合はレポートにすると便利です。また、レポートにすることでクエリを複数の SOLIDWORKS PDM ユーザーと共有できます。
複製ボルト機能による遠隔地同期
SOLIDWORKS PDM Professional では、複製ボルト機能が提供されています。これにより、離れた拠点にPDM環境を構築し、常に同期させることができます。この機能により、地理的に離れたチーム間でも設計データを共有し、リアルタイムでの共同作業が可能になります。複製ボルトは自動的に同期されるため、データの整合性が保たれ、設計業務が滞りなく行えます。
詳しくはこちらのコラムにて解説していますので、あわせてご覧ください。
APIによるカスタマイズ
SOLIDWORKS PDM Professional では、プログラム開発のためのAPIが無償で公開されています。これにより、企業ごとの特定のニーズに応じたカスタマイズが可能です。
例えば、承認のタイミングで他部署向けのBOMシステムにプロパティ情報を受け渡すなど、業務に必要な処理プログラムを開発することができます。また、このAPIを利用することで、他のシステムと連携し、データの一貫性を維持することができます。
テクノソリューションズではSOLIDWORKS API サポートサービスをご用意しています。PDMのカスタマイズについてご興味のある方は、お気軽にご相談ください。
まとめ~導入するならSOLIDWORKS PDM Professional を~
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
冒頭で「適切なソリューションの選択は、チームの規模と設計プロセスをサポートするために必要な機能によって異なります」とお伝えしましたが、SOLIDWORKS と SOLIDWORKS PDM をユーザーインターフェースのみで使用する前提であれば、SOLIDWORKS PDM StandardでもSOLIDWORKSのデータ管理機能を十分に実感できます。StandardとProfessionalは同じアーキテクチャーなので操作性は同じですし、後からアップグレードすることも可能です。
ただ、今回ご紹介したProfessionalだけが持つ機能についても少し検討してみていただきたいと思います。
たとえばAPIによるカスタマイズはProfessional限定の機能です。BOMと連携したい、SOLIDWORKS の自動設計をしたいなどの要望が出てきそうな場合は、初めからProfessionalを導入することをお勧めします。Standardでは、連携している処理を設計者自身で行う必要があり、手間がかかるからです。
また、「まずはStandardを入れたけれど、やっぱりProfessionalにアップグレードしたい」となった場合、既存のデータはそのまま使用できますが、コストも掛かりますし、設計環境の再構築に多くの工数が必要になります。
まずは、社内システムの構想を弊社にご相談ください。お客様に必要なものを適切にアドバイスいたします。
【用語集】
PDM関連の用語は聞き慣れない方もいらっしゃると思います。このコラムを読むにあたり、知っておいていただきたい用語を説明します。復習にもお使いください。
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